なぜジャズでは「ツーファイブ」が好まれるのか【解答編】
お疲れ様です! いきくんです。
前回の記事「なぜジャズでは「ツーファイブ」が好まれるのか【疑問編】」は読んで頂けましたでしょうか? 今回はその解答編となっています。
【疑問編】はこちら!
予備知識の確認
前回の記事では、
★ダイアトニックコードのI、IV、Vがそれぞれトニック、サブドミナント、ドミナントの代表格。
★IV→V→Iというコード進行は非常によく登場するが、ジャズではサブドミナントを代理コードにして、II→V→Iとなることが多い。
というところまでお話しましたね。
ツーファイブワンは強い
「強進行」という言葉をご存じでしょうか?
「5度進行」と呼ばれることもあり、その名の通り、ルート(コードの構成音の一番下の音)が完全5度下へと動く進行のことです。
この動きはとても強い進行感を持っています。
試しに鍵盤の低い音域でソの音を弾いてから、その下のドへと進んでみましょう。
これだけでもスッキリ感を味わえる筈です。
それではここで、サブドミナントをIVコードではなくIIコードにすると何が変わるのか、という点を見てみましょう。
はい、どうでしょう。
言うまでもなく、ルート音が変わっていますね。
よって、ツーファイブワンはサブドミナント→ドミナント→トニックまで通して強進行していることになるわけです。
(ちなみに強進行、5度進行は、ジャズの世界では「4度進行」という言い方をすることの方が多いのですが、ツーファイブを完全4度上への進行と表現してしまうのは実は微妙だったりします。)
強進行と倍音
さて、ここからはもう少しだけ突っ込んで、強進行のスッキリ感の正体についてお話しします。
ただし、この項目はかなりややこしい上に今回の本題からは外れているので、「本題だけでいいよー」という方は丸っと飛ばしちゃっても大丈夫です(笑)
結論から言うと、強進行のスッキリ感は「倍音」によって裏付けられると考えることが出来ます。
吹奏楽界隈では意味も分からず「倍音」という単語が独り歩きしている感がありますが、ともかく「言葉は聞いたことがある」という方も多いのではないでしょうか。
例えば「ド」の音を鳴らした時、実はその「ド」(基音といいます)の周波数に対し、整数倍の周波数が同時に生まれているのです。物理の世界のお話ですね。
もっと簡単に言うと、「ド」と鳴らした時、実はその「ド」以外の色々な音が同時にうっすら鳴っているということです。
具体的には、
こういった具合に。
倍音の前身となる考え方は、なんと紀元前にピタゴラスによって発見されていました。倍音自体は、1636年にメルセンヌによって発見されます。そして1753年にベルヌーイによって三角関数を想定して周波数と整数倍の重ね合わせが出来ることが発見され、その後19世紀にフーリエによって体系化されます。……あ、覚えなくて良いですよ(笑)
訓練すると、基音である「ド」と同時にボワーっとこれらのピッチが鳴っているのが聴き取れるようになります。
また、分からないという人も、機械的に倍音をシャットアウトした「ド」(純音)を聴いてみるとその違いは感じられる筈です。
もちろんこの譜例よりも更に上に、人間の耳ではとても認識できない高次の倍音まで理論上存在することになっています。
それでは、話を戻しましょう。
強進行と倍音はどう関係しているのでしょうか。
まず1つは、「ソ」→「ド」という強進行において、「ソ」は進行先の第3倍音に転がり込む、と考える事が出来ます。
もう1つは、第四倍音~第七倍音に着目してみて下さい。ここにとあるドミナントセブンスコードが存在していることにお気づきでしょうか。
「ド」という基音は既に倍音によって「C7」の要素を含んでいると考えることが出来るでのす。
(この辺りはもう少し厳密な説明が本来必要ですが、ちょっと難しくなりすぎるので今回は割愛しています。)
まとめると、ある音が鳴った瞬間、倍音によって既に強進行が示唆されているということです。
さらに言うと、前編で保留にしていた「何故主要三和音は全てメジャーコードなのか」という疑問も、基音から近い倍音列に含まれる音だけで出来ている、極めて調和のとれた和音がメジャーコードであるためと考えることも出来ます。
(それに加えて、I、IV、Vの3つのコードでメジャースケールの全ての音を網羅できているという点も挙げられます。)
また、吹奏楽の合奏には「純正律でメジャーコードの5度は+2.0、3度は-13.6」というキーワードが有って、「これを知ってる人は通」みたいな風潮がありますが(少なくとも僕の時代にはありました笑)、実はこれも倍音に関係しているのです。
根音を基音とする第三倍音、第五倍音などの、5度と3度にあたる音が平均律に対してその分だけ差のある周波数で存在するので、そこを狙って演奏すると倍音との間のうねりが生じず、気持ちよく調和するね、という理屈なのです。
本題に戻ります
さてさて、話を戻しましょう。
「何故」が高じて倍音の話まで出てきてしまったのでお疲れかとは思いますが、ここでようやく今回のメインのお話となります。
ツーファイブワンが強い進行感を持っているのは分かりました。
では、ジャズでその強い進行感が求められるのはそもそも何故?
これは一意見に過ぎませんが、僕の中でしっくり来ているのは次のような答えです。
結論を述べる前に、一般的なジャズという音楽を思い浮かべてみましょう。
ドラムの音が基本的に休みなくジャカジャカと鳴っていて、サックスがパラパラとアドリブを吹いている。
コード、とりわけ内声を含んだハーモニーの担当はもっぱらピアノです。
しかし、クラシックのオーケストラと違ってピアノは基本的にアタックが最も強く、同じ音の中でダイナミクスに変化をつけられません。
ソロピアノならまだしも、ドラムやフロントの管楽器が常時目立つ音を発している状況です。
内声の詳細な移り変わりというのは、どうしてもはっきり伝わらなくなってしまうものです(しかもテンションを含んだボイシングです)。
そんな状況ですから、同じ「サブドミナントからドミナント」という動きでも、外声であるベースを強進行させることで、コードの移り変わりを補う必要があるのです。
これが今回の結論。お分かり頂けましたでしょうか?
補足として、サブドミナント→サブドミナントマイナーという進行においても、
多数の管楽器がハーモニーを担当していたスウィング時代には「IV→IVm」という動きが多かったのですが、
モダンジャズ以降は「IV→♭VII7」という代理コードの使用により強進行させるのが主流となったという点も付け加えておきたいと思います。
これも面白い話ですよね。
今回はここまで!
いやー、ややこしかったですね。そして回りくどかったですね(笑)
音楽をする上で、必ずしも物理の話にまで首を突っ込む必要があるわけではありません。
ただ、だからといって「倍音」が何なのかさっぱり分かってはいないけど、「知ってると通」っぽいからという理由でテキトーな嘘を教える吹奏楽部の先輩、先生、いたりしませんか?
それを防ぐ意味でも、アウトラインくらいは知っておくといいかも知れませんね。
本質を理解するには、対象そのものだけでなく、多面的に考える必要があるというお話でした(深い)。
それでは今回はこの辺りで!