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16分の15拍子を長3度ずつ割った枠の上で自由に音を選ぶ作曲方法【UG】

単発 | 無料記事 | 著者:いきくん

こんにちは!

今回もいきいき音楽科の過去動画振り返りシリーズです。

 

今回振り返る動画はこちらです!

16分の15拍子を長3度ずつ割った枠の上で自由に音を選ぶ作曲方法

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新ユニットでフジロックに出演、テレビアニメとのタイアップなど絶賛活躍中の作曲家・ピアニスト髙本りなさんをゲストに迎えた動画です。

2020年にリリースされたアルバム「HARU」の中から、「INCREMENTALITY」という楽曲の作曲技法を惜しみなく本人解説していただきました。

 

徐々に増えていく拍子

この曲は16分の15拍子として作曲されており、より具体的には16分の「4+5+6」というコンセプトになっています。

 

Incrementality…徐々に増えていく

 

曲名の通り4→5→6と16分音符のひとかたまりが徐々に増えていくのが特徴です。

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※記事上部の埋め込み動画で、この冒頭部分はすぐに聞けます。

 

長3度均等割りのベース

各かたまりの始めの音はそれぞれ「A♭」「E」「C」となっており、1オクターブを均等に3分割した関係性で動いていきます。

 

そしてベースラインはそれぞれ、

 

A♭:A♭ → E♭ → G♭ → A♭(1→5→♭7→1)

3rdは鳴らさずメジャーかマイナーかは断定しない。7thは短7度。

 

E:E → B → D → E → F♯(1→5→♭7→1→2)

あるいは、E → B → D♯ → E → F♯(1→5→7→1→2)

こちらも3rdは鳴らさず、7thは場合によって短7度を弾いたり、長7度を弾いたりと切り替えています。

 

C:C → G → D → E → F♯ → G(1→5→2→3→アプローチ→5)

こちらは基本的にメジャー3rdを含んでいます。最後の5thへのアプローチは下から行く場合と、上から行く場合があります。

 

イントロからこのベースラインがひたすら繰り返され、メロディが始まってもそのまま同じものを弾き続けています。

 

右手でコードサウンドを変える

この後16分の9拍子となり「4+5」のBセクションが入ります。

そして、それに続く8分の6拍子のセクション。

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※アルファベットはコード名ではなくベースの開始音

Aセクションでは「A♭、E、C」という均等割りをしていたところから、「B、G、E♭」という別の音による三等分に変わります。

 

このベースをキープしたうえで、メロディを乗せていきます。

 

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ベースに対して、右手のメロディがたどる音によって縦のサウンドが自由に決められていきます。

譜例1小節目の「B」では、メロディにD音が使われており、コードサウンドは「Bm7」になっています。

それに対して5小節目の「B」ではD♯音が使われており、こちらは1拍目が一時的にBメジャーコードになっています。

 

「コード」というよりは、ベースに対して縦に選んだ音がその瞬間の全体のサウンド(局所的なモード)を決定していくイメージです。

 

また、規則的に切り替わるベースに対して、メロディがうまく対応しながら横に流れるようにフレージングをしています。

 

コード的に見た場合のお互いの共通音をうまく使ったり、

5小節目のBメジャーを意識した音選びが4小節目の後半で先取りされていたり、必ずしも小節線に縛られるわけではない音の切り替えをしているのが分かります。

 

メロディの各音を常にどれかひとつのベース音と結びつける必要はなく、意識はするけど断定はしない。対応関係を曖昧にしておくことで自然な歌が作られています。

 

深堀

この8分の6拍子のセクションは結果的に「VIm7 - IVmaj7 - ♭IImaj7」という機能的な枠組みも形成しています。しかし、それが「分かった」からと言ってその曲が書けるわけではありません。この曲の場合はやはり3等分というコンセプトこそが重要です。既存の和声の考え方と、様々な発想法を柔軟に混ぜる作曲方法がコンテンポラリー音楽では多々用いられています。

 

機能和声に行き詰ったら

この曲の場合、一方では自由にメロディやコード(局所的なモード)のサウンドが決定されていきつつ、他方では1オクターブの3等分という規則的な骨組み=幾何学的なモチーフをキープすることで、いわゆる機能和声とは異なる発想で書かれていながらも聞きやすい音楽になっています。

 

一般的な機能和声に基づく作曲に行き詰ったら、普段やらないような作曲方法も試してみると、目の前にある音そのものに向き合う視点が強化されると個人的に思っています。ぜひ試してみてください!

 

生配信やります

というわけで、今回は「16分の15拍子を長3度ずつ割った枠の上で自由に音を選ぶ作曲方法」を振り返ってみました。

この動画は昨年のアルバムリリース記念に作ったものですが、作曲の裏話や精神的な話ではなく、他では話さないような具体的な方法論の部分を共有していただきました。

 

リスナー向けのインタビューも多々受けられている中で、音楽やる側のオープンなコミュニティという独特な立ち位置を理解してお話ししてくれた髙本りなさんには大変感謝しています。

そんな髙本りなさん、約10か月ぶりにいきいき音楽科の生配信へのゲスト出演が決定しました!

 

音楽についてテーマを絞らず雑談していきますので、よければ是非遊びに来てください。

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